佳作

「世界の中の日本と私」
−世界平和の実現−

東京都 学習院女子高等科 1年

松本 百合子

 私が生まれてから見てきたものの中で、最も吐き気を催し、かつ直視しなければならなかったもの。それはあるサイトに掲載されていた数々の写真だった。思い出すだけでも虫酸が走るが、それはイスラエルによるパレスチナ難民惨殺の証拠写真集である。場所は、ジェニン難民キャンプ。イスラエル・パレスチナ攻防戦の中でも、最も激しいテロや虐殺が行われている地区の一つだ。それらの写真を見たとき、人間が鬼になるとはこういうことだと震撼した。人が、ただの血みどろの塊になったところを想像できるだろうか。
 私はそのサイトを見て、戦争について真面目に考えるようになった。なぜ殺し合わなければならないのか。なぜ止まらないのか。根本的な疑問への的確な答えは見つからない。戦争や紛争は気付かぬうちにどんどん泥沼化して、気付いたときにはもう手遅れになっていること、そして何より、人を人でなくしてしまうことが一番恐ろしいと思う。
 戦争だけではない。発展途上国における飢餓やHIVの拡大も深刻である。現在のペースでは飢餓撲滅に130年以上かかると言われている。また、世界のHIV感染者4000万人のうち90%が途上国、75%がサハラ以南アフリカに住んでいる。世界には問題山積なのだ。
 世界平和はいつ、どうすれば実現するのか。戦火の絶えない地域や飢餓に苦しむ国々のために日本が果たすべき役割はたくさんあると思う。日本のODA拠出額は現在世界第2位。91年から2000年までは実に世界第1位であった。巨額の資金はどこへ流れ、どのように使われているのか。2002年版ODA白書によると、わが国のODAはアジアを中心に、経済成長を通じて貧困削減と人・制度づくりを重視して展開されているという。今回は「平和づくり」「感染症」「飢餓」の3課題に的を絞って、日本の支援の内容とその成果について調べてみたいと思う。
 アフガニスタンや東ティモールなどへの援助における日本の功績は目に顕である。復興のための支援国会合や支援国際会議などを主催し、主体的に支援を行っていることがわかる。具体的には、「アチェにおける和平・復興に関する準備会合」を開催したり、アフガニスタンへの支援金45億ドル以上を集めたほか、国からは5億5500万ドル余の資金援助を行っている。日本の援助を受けて有能な人材が育ち、祖国の発展と世界平和に貢献することにつながったらいいと思う。また2002年度アフガニスタンからは行政・医療・教育などの研修員60名が受け入れられ、日本で学んだ。実際にそのような活動に携わってみたい、とも思う。
 南部アフリカでの感染者が多いHIV。毎年約300万人がHIVで死亡している。劣悪な衛生管理と不十分な医療体制が、感染拡大の大きな原因だ。祈祷師による悪霊退散の祈祷が唯一の治療法であるようなところもある、という報告をテレビで見たこともある。
 HIVのみならず、日本で生活している限りあまり気にすることのないマラリアや結核も世界ではまだ流行地域がたくさんあり、国際社会にとって脅威である。日本は「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」の理事会副議長を務め、さまざまな計画を実行し、何十億ドル単位の支援を数多く行ってきた。現在は「沖縄感染症対策イニシアティブ」の実行中であり、エチオピアでのポリオワクチン全国一斉投与、フィリピンでの結核検査システム技術協力などを行っている。また日本はHIV拡大対策に対し非常に熱心に取り組んでおり、ザンビアでHIV/AIDS対策ワークショップを開催するなどしている。HIV感染者の7割以上に当る2900万人が集中している南部アフリカでは、HIVによって平均寿命が著しく短くなるなど社会崩壊の危機に瀕している国もある。日本は妊産婦検診で母子手帳制度の普及をはかるなど、感染拡大の阻止に努めている。
 私には、エイズやマラリアが蔓延している真只中に飛び込むというような勇気はない。こういうだらしない心掛けでいる人が大多数を占めるような世の中だから、途上国の諸問題はなかなか解決しないのだろう。現地で援助をしている人の意志の強さと心の優しさに、ただただ感服するばかりだ。
 感染症と密接な関係にあるのが飢餓の問題である。現在、世界人口の約14%に当る8億人余が栄養不足や飢餓に苦しんでいる。多くの途上国では急増する人口に国内食糧生産が追いつかない上、土壌劣化や異常気象などの要因が重なり極度の飢餓状態が多発している。日本の飢餓対策協力は、1954年のコロンボ・プランへの加盟を皮切りに稲作から農村振興まで多彩な広がりをみせている。民間のNGOと協力してエチオピアなどで農業指導を行ったり、飢餓地域への食糧援助など積極的に活動する一方で、森林の農地への転用などによる砂漠化問題も深刻化してきており、環境に配慮した活動が求められている。「ミレニアム開発目標」には2015年迄に飢餓人口を半減させることが示されている。
 これからの日本のODAはどのように展開していくのだろうか。国内からの批判を受けてその予算は減少傾向にあるが、依然その拠出額の高水準であることは変わっていない。今後外務省は、アジア地域への重点配分・平和構築の重視・人権の安全保障の重視を柱に「透明性・効率性・国民参加」の実現のためODA大綱の見直しに着手している。
 援助大国日本。その国民の一員として、世界平和のためにできることはないだろうか。様々な難題にあえぐ世界のなかで、日本は立派にその役割を果たしていると思う。では私は何をしたらいいのだろうか。
 まず、世界の現状を正しく理解することが必要だ。偏りのない真実の知識を持ったうえで、自分なりの意見を持つ。そのプロセスが重要だと思う。いま私がその必要を感じているのは、戦争のことだ。戦争は恐ろしい。何度となくそう言われてきて、何となく恐さが分かったような気になっている。その「分かった気」が、もしかしたら一番恐ろしいのではないかと思う。人が殺されること、人々が憎しみあうこと、憎しみが人の心を狂わせること……凄惨で身の毛がよだつ恐さだ。パレスチナ難民虐殺証拠写真集のサイトを見て初めて実感した。それまで「何となく」想像していた事は、今から思うとお遊戯のようだ。いかに自分が戦争を軽視していたかを思い知らされる。もし私と同年代の人たちが、以前の私と同程度の認識しか持っていないとしたら、第三次大戦も十分起こりうるだろう。まだ十分に考えがまとまらないが、若年層の戦争に対する認識の変革が早急に必要だと思う。
 個人の役割の第二段階は、自分の意見を表現することであると思う。完璧でなくて構わない。不特定多数に向かって自分の考えを問うてみるのだ。何らかの反応があるだろう。それによって、自分の論を客観視する機会を持てる。その発見が大切なのでは、と思う。
 第三段階は、討論をしたり専門家の本を読んでみたりして、同じ事象に対する色々な考えに触れることだと思う。この時相手を日本人に限定せずに、違う国の人が書いた本を読んで、違う国の人とも討論をしてみる。価値観の違いや事象との距離の違いによって興味深い結果が得られるだろう。
 第四段階に至る人はなかなかいないが、今後ぜひともその数を増やしていかなければならないと思う。すなわち、実地に赴いて実際に活動する人である。
 今は、世界平和の実現のためには最悪といっていいほどの状況だろう。皆自分に関係ないと思って、狸寝入りを決め込んでいる。さらに悪いことに、豊かな国に暮らしている幸運さに気付いて感謝している人は少ないのではないか。恵まれない境遇に生きている人たちのことを頭の片隅で認知していつつも、「何となく」皆自分と同じような生活を送っているなどと無意識に思ってしまっているのではないだろうか。
 世界平和を実現するためには、まずは現状の打開、先進国による途上国への援助が必要である。この体制は整っている。次に、その援助を高率にし助長するために、先進国民の自覚を促すことが必要である。そして今よりもっと多くの人が現地で活動するようになれば、もう占めたものである。世界平和も夢ではなくなってくる。
 厳しい現実をできるだけこの夢物語に近づけていくために、私たち次世代は何をすればいいのか。答えは明白である。じっくり学び、とっくり考えることが許される学生時代、つまり今、前述のとおり世界について正しい知識を備え、論を吟味しておくことなのだ。そして常に、世界の中での日本と自分の位置関係と役割分担を意識しておくことが重要だと思う。